スズキ金物店メインイラスト

T O P 会社概要 商品紹介  焼 印合カギ D  I  Y 千代鶴系譜 道具の歴史リ ン ク





むすびに



 「はじめに」のところで述べましたように、大工道具の本格的な研究は昭和40年代からで、まだ50年足らずしか経っていません。大変新しい学問分野です。近年、ようやく伝聞から脱して、史・資料に基づいた本格的な研究段階に入ったと言っていいでしょう。


 私は、大工道具を建築に使われる単なる道具ではなく、世界に誇る日本の文化の一つであり、大工道具を作る職人の人たちが長い歴史を掛けて、この文化を創造して来たのであると、著書や論文で主張して来ました。私は、さらに、以下のようなことを思っています。

 古代の人たちは、建築に使う鉞(まさかり)・手斧(ちょうな)・鑿・ヤリカンナなどの刃物道具が、石器道具と比べてたやすく切れたり削ったりできることから、鉄の持つ不思議な能力を恐れ敬い、これらの刃物道具を神が宿る道具としてあがめ尊ぶ風習がありました。 

 そのために、古代では生産量の少ない鉄の貴重性と共に、これらの道具は非常に大切に扱われ、天皇の住む宮殿や神社を建築する際に斎斧(いみおの)・斎鋤(いみすき)の儀が斎行され、この祭儀がその後「手斧始めの儀式」として定型化されることになったのです。

 しかし、時代の経過と共に、手斧・鉞・鑿・鋸・鉋などの建築道具(大工道具)は当然切れるもの、削れるものとして思い、いつしかそれらの道具に神が宿ると恐れ敬う人たちはいなくなり、やがてこのことを忘れ去られた時代になって行きました。

 大工道具が商品化され、大量に流通する近代化の過程では致し方ないことなのでしょうが、かつてはこのような思いで作られ使われて来たことを、大工道具を使う大工職の人たちは少しでも知っていてほしいと思います。

近年、各地で「手斧始めの儀」が復活していることは喜ばしいことですが、「手斧始め」の奥に秘められた信仰をしっかりと受け止めてほしいとも思っています。


その意味からして、大工道具研究には建築工学的アプローチも非常に重要なことなのですが、建築工学的アプローチだけでは知り得ない民俗学の領域があり、今後、民俗学を取り込んだアプローチが、さらに重要な大工道具研究課題になることと思います。






   平成26年5月吉日
   有限会社 スズキ金物店
     代表取締役 鈴木 俊昭



(参考)
一、フリー百科事典ウィキペディア
一、中村雄三「増補 図説日本木工具史―日本建築工具の史的研究―」(1974)
一、船曳悦子論文「近現代における鉋の変遷について」(2011)
一、拙著「日本の大工道具職人」(2011)
一、拙著「続日本の大工道具職人」(2012)





←前のページへ   このページのトップ   道具の歴史へ→

トップイラスト

Copyright (C) 2006 Suzuki Kanamono. All Rights Reserved