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(一) 日本の鋸歯形状の変遷史



 まず日本の鋸における鋸歯形状の変遷史を、古墳時代から中世まで概観してみましょう。この変遷史については、竹中大工道具館の赤沼かおり・福井幸子両学芸員の論文「日本近世以前における鋸の使用法」(竹中大工道具館研究紀要第9号 平成9年6月)と吉川金次著「ものと人間の文化史/鋸」(昭和51年)を参考にさせて戴きました。



T 古代鋸の鋸歯形状

古墳時代(300〜550)の鋸が、多くの古墳からからいろいろと出土しています。4世紀の古墳から出土した鋸は、鋸身の形が短柵型(長方形の鉄板に鋸歯を付けたもの)の両刃鋸で、鋸身の幅は3p前後、鋸身の長さは30pほどのものもありますが、20p以下の長さが中心です。鋸歯は、小さな二等辺三角形をした押し引き兼用の横挽き目の「素歯」になっているのが数点出土しています。他のものは腐食が甚だしく、鋸歯の形状は確認できません。これらの鋸は、木工用ではなく、鹿角・貝殻などの細工のために使われたのではないかと指摘されています。


 5世紀の古墳からは、4世紀と同様の短柵型の鋸が出土し、鋸歯も小さな二等辺三角形の「素歯」の形状です。しかし、静岡県同山古墳から、ナゲシ(鋸歯にヤスリをかけて刃部を研いだもの)を確認できる最古の鋸が出土しています。しかし、腐食が甚だしく鋸歯の形状は不明です。この鋸は鋸身の長さは約17p、鋸身の幅は約3.5pです。長野県の金鎧山古墳からは、茎式(なかごしき:鋸身の一方の先に柄を付けるための茎を作成したもの)が出土しています。歯道は22p、茎部は2p、鋸身の幅は2.5pです。「素歯」の鋸歯に、アサリ出しが確認できる最古のものです。ナゲシもあります。

このことから、5世紀になり、ヤスリと目立ての技術が一段と進歩したことが理解できます。しかし、鋸身の大きさと小さな鋸歯が「素歯」の形状から、まだ木工具としての鋸ではなく、それ以外の細工に使用するものであったのではないかと推察できます。


6世紀の古墳からは、出土した鋸のほとんどは「素歯」ですが、短柵型と茎式鋸の鋸歯に「ガガリ目」形状のものが2点出土しています。埼玉県の永明寺古墳から出土した「ガガリ目」形状の短柵型鋸は、押し引き兼用ですが、兵庫県の園田山古墳から出土した茎式鋸は、引き使いです。両方とも鋸身の長さは18p余り、幅はまだ以前の鋸のように狭く、鋸身の厚さは3mmで、片刃鋸です。この鋸歯の形状は「古代ガガリ目」と言っていいでしょう。



U 上代鋸の鋸歯形状

 上代である飛鳥時代(550〜710)と奈良時代(710〜794)の鋸は、どのような鋸歯の形状をしていたのでしょうか。


7世紀の古墳からは、短柵型鋸が2点、茎式鋸が1点出土していますが、これらは押し引き兼用の「素歯」で、アサリ出しは確認できなく、1点にナゲシの確認ができます。


8世紀になると、短柵型の鋸は遺跡から出土しなくなり、出土した鋸や伝世鋸はすべて茎式鋸で、鋸身の全長が50〜60pある大型鋸も現れます。始めてアサリやナゲシのある「箱屋目」の形状が出現します。押し引き兼用鋸です。


V 中古鋸の鋸歯形状

 中古である平安時代(794〜1192)の鋸は、東京都板橋区の栗原竪穴住居跡から出土した鋸身の長さ約51p、幅3.5pの茎式鋸があります。内湾の歯道、先端の鼻状突起、厚みが3mmあり、樹枝伐りおろし鋸と思われます。鋸歯は「箱屋目」で、アサリとナゲシが確認されています。


もう一つ、この時代の鋸が発見されています。長野県飯田市の寺所遺跡から出土した鋸です。茎式で鋸身の全長が約40pあり、鋸歯は「箱屋目」でアサリとナゲシが確認でき、押し引き兼用鋸です。



W 中世鋸の鋸歯形状

 中世と言われる時代は、鎌倉時代(1192〜1336)、南北朝時代(1336〜1338)、室町時代(1338〜1573)、安土桃山時代(1573〜1603)ですが、この時代のはじめの鎌倉時代から樹木伐採用の横挽き鋸や、丸太や木材を横に切断する木の葉半切型の鋸が広く普及し始めます。大工仕事をしている絵画に、この型の鋸が多く描かれています。

しかしまだ、大型の縦引き鋸はなく、角材や板を製材するには、丸太に楔(くさび)を打ち込んで引き裂いていた時代でした。


13世紀の鎌倉時代の遺跡である神奈川県伊勢原墓壙から、鋸身の長さが約30p余りであったと思える木の葉半切型鋸が出土しています。鋸歯は「箱屋目」の形状で、アサリとナゲシがあります。またこの時代の広島県福山市草戸千軒町遺跡から、約60pの鋸身の長さがある木の葉半切型の大型鋸が出土しています。鋸歯は、「箱屋目」でアサリとナゲシがあります。


15世紀の室町時代の遺跡である三重県上野市下郡遺跡から、約60pの鋸身の長さの木の葉半切型鋸が出土しています。鋸歯は「イバラ目」で、アサリとナゲシがあります。この時代から、「イバラ目」である鋸歯の形状の鋸が出現し始めたと言っていいでしょう。

また、室町時代になると、大陸から二人挽き用の縦挽き大鋸(おが)が伝来し、「ガガリ目」を持った大型縦挽き鋸が登場します。



鋸歯の形状1





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